HOME > Why Knot ?

――小木戸さんの心に残っている時計の思い出を教えてください。
「僕はイギリスの大学(ノーザンブリア大学)で演劇とパフォーマンスを学んだのですが、留学をする前に2ヶ月ほど、一人でバックパックを担いでヨーロッパを広く旅したことがあるんです。その時に、腕時計を買ったんですよね。飛行機や鉄道やバスの時間、友達との約束の時間など……人生の中で一番「時間」というものを意識した期間だったと思います」

――その時計って、まだ持ってらっしゃったりしますか?
「実家のどこかにあると思います。大事なものを保管している箱の中に入れていたかなぁ。もう実物はかなりクタクタですよ。各地の海水や太陽を浴びていて、僕の汗もたくさん吸っています。今日、着けさせていただいたKnotの時計とはだいぶ雰囲気が違います(笑)。この時計は、着けると良い意味で背筋が伸びてくるのを感じますね」

――小木戸さんは一つの枠に縛られない様々な表現活動をしてらっしゃいますよね。俳優、音楽家、パフォーマー、そして、作家としても今年7月には『表現と息をしている』というエッセイ集を出されていて。小木戸さんはご自身の活動の軸はどこにあると思ってらっしゃいますか?
「まさにこの本のタイトルが、僕自身について的確に説明してくれているのではないでしょうか。僕が何者であるのか、もしもその肩書きが必要であるとしたら、それは、読者の皆さまそれぞれが「表現と息をしている」から想起する僕の姿によって、自由に決めていただいてよいと思っています。表現の軸としては、僕のあらゆる作品づくりには、一貫しているテーマがあると言えるかもしれません。僕のなかには、地域や国際社会やその歴史の中で、例えば、生まれながらの特性や、何かしらの社会的・政治的な情勢や、人種・信条などの理由によって困難に直面している、社会的に弱い立場にある人たちの「声」のようなものを、番組や作品や表現を通して、浮かび上がらせたいという思いがあります。語られなければ、知られることのない物語が、この世界にはたくさん存在していると思っているのです」

――普段生活している時間の中では見過ごされがちな、人々の声に耳をすませる。
「そうですね。今年は、長崎の原爆をテーマにした番組(NHK『あんとき、』)で、被爆二世の主人公を演じるという機会に恵まれました。周知のとおり、1945年8月9日に長崎に原爆が投下されて、そこでものすごい数の人が被爆をしていて、7万にも及ぶ人の命が奪われています。ここには言わずもがな、筆舌に尽くしがたい、無数の人たちの戦中・戦後の労苦があります。こうした無数にある声なき声が、すこしでも番組の中で浮かび上がってくることを願いながら、撮影に臨んでいました。この仕事では、俳優として、そうした声なき声を届けるための依り代になるということを目指したところもありました」

――自分自身を保つために大事にされている時間ってどんな時ですか?
「表現者として、自分の心と身体を通して、何かを浮かび上がらせる媒介のようなものとして機能するためには、自分自身がニュートラルな状態でいることが大切だと感じています。何かを受け取り、それらを写し取っていくという意味では、自分が感情的でありすぎたりするとそのプロセスを妨げることがあるように思います。ですので、なるべく自分自身は透明でクリアな状態でいたいと願っていまして、そのためにも僕は、毎朝静かな時間の中でヨガをしています。これは、自分にとって、とても大事な時間です。朝一番に自分自身の状態を整えてから、仕事を始めています」

――表現者として、時間は「敵」と「味方」のどちらだと思いますか?
「自分の中に、常に時間に急かされている感覚がありまして、どうにかしたいなぁ、と思っています。仕事としてやりたいこと、これから形にしていきたいと思っている事がたくさんありまして、そんな時に、時間の有限性を思うと、やはり焦ってしまうのです。でも、焦りながらここではないどこか遠くを見て生きていくことは、僕の心と身体にとっては健康的ではないと感じています。常に先を、先を追いかけることで生じているこの焦りが、「今」この瞬間を生きているのだという実感と喜びに変容していくとよいなと思っています」

――目の前の、今という時間を大切に過ごしていく、ということですか?
「そうですね。先ほどのNHKの番組では何人かの実際の被爆者の方にインタビューをさせていただいたのですが、今日、この撮影に入る直前に、その内の一人の方がお亡くなりになったという連絡が入りまして、限りある時間と出会いの一期一会について考えていました。旅立たれる直前にお会いしてお話を聞かせていただいて、僕はある種のバトンを受け取ったように実感していまして、不思議と悲しみではなく、勇気と前向きな力が溢れてきています。自分にできることは、きっと、ここではないどこかではなく、今ここにあるのだと、感じ始めています」

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