ABOUT 博多織



―ものづくりの伝統を世界へ伝えるKnotと、770年以上の伝統を現代につなげる筑前織物。まず、その出会いについて教えてください。

遠藤弘満(以下、遠藤) 日本の伝統工芸や匠の技術を腕時計に取り入れて世界に発信していく、というのが創業以来取り組んでいるKnotの「MUSUBU」プロジェクトです。全国にある直営店を拠点に、地域の伝統工芸や古くから続く技術を製品化しています。現在提携している会社は14社ほど。2018年2月に福岡の「天神ギャラリーショップ」をオープンするにあたり、博多織を時計のベルト部分に取り入れたいと考え、筑前織物さんにご相談しました。

丸本修司(以下、丸本) あるとき「時計のベルトにさせてください」とお電話をいただきましたよね。Knotさんの時計を知っていたので、驚くと同時にすごく嬉しかったんです。我々の製品は、ホテルやマンションのインテリアとして製品化はしていますが、より日常生活に寄り添うものにならないかと探っていたときでした。織物と時計。意外な組み合わせに期待を膨らませながら、電話を受けた覚えがあります。

遠藤 メイド・イン・ジャパンの製品は人気がありますが、私たちは日本製というだけではなく地域固有の歴史やストーリーを踏まえて製品化していきたいという思いがあります。福岡でも博多織は特別なもの。という私も、以前は博多織のことをよく知らなかったんです。でも「博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)」を見て衝撃を受けました。法被に男帯を締める担ぎ手や、お祭りのためにカバンやお財布など小物を博多織でそろえる人もいる。お祭りの歴史とともに、何百年も地元の人たちに愛され、脈々と受け継がれている織物はほかにないのでは、と思ったんです。

丸本 博多織は、2018年で777年の節目を迎えました。その図柄は、駅のアイコン、ホテルや飲食店の装飾などまちの至るところで使われていて、本当に地元の誇りだと思います。ただ、普段から身につける人はなかなかいないかな、と。博多織の特性を考えると、経糸(たていと)が多くて丈夫。上質な絹糸で織られた美しさはもちろん、帯にすると緩みにくく機能的にも重宝されてきました。その反面、加工しにくいという難点もあり、さまざまな製品への応用はチャレンジでもあります。我々の会社も「伝統と革新」というスローガンを掲げていますが、伝統を守るだけではなく、時代の変遷とともに新たな挑戦も必要です。そういう意味でも今回はいい機会をいただけたと思っています。

引裂き
引裂き

―「伝統と革新」というキーワードに、Knotと筑前織物は共通するものがありますね。

丸本 博多織の知名度は、日本国内でもまだまだです。名前を聞いたことがある人は多いと思いますが、それがどんな製品か、どんな技術かまではなかなか知られていません。それは知るきっかけがないからなのです。我々もプロモーションには注力していますがなかなか届かない。

遠藤 時代が変わるなかで、伝統産業のマーケットを拡大することは難しいですよね。でもこれまで培われてきた技術を現代に適した形で応用していけたら。腕時計は、日本が誇る世界的な生産業の一つです。そこに日本の伝統を取り入れることで、世界の人たちに知ってもらいたいと思っています。

丸本 腕時計はある年齢を超えたら多くの人が身につけるもの。特に人生の節目や大事な思い出と重なることも多いのではないでしょうか。たとえば成人式のときに親に買ってもらったもの、初任給で自分のために買ったもの、恋人からプレゼントされたもの、と。そうした記憶やストーリーに我々の博多織が重なる。それがとっても嬉しいですし、わくわくします。

遠藤 着物のユーザーは年配の方が多いのではないかと思いますが、腕時計をきっかけに、この博多織が幅広い世代にも届くといいなと思います。今日初めて工場を見学させてもらい、筑前織物さんには若い女性のスタッフが多いことに驚きました。

丸本 伝統工芸と聞くと、ベテランの職人が携わっているイメージがあるかもしれませんが、筑前織物では20代から30代の職人やデザイナーもたくさんいます。ウェブサイトを見て、「私はものづくりがしたいので働かせてください」と電話をかけてきた若いスタッフもいて。そういったやる気のある若手の活躍も知ってもらえたら嬉しいです。

遠藤 デザインの現場も初めて拝見しましたが、非常にクリエイティブな仕事ですよね。細かい升目の集積で図案をつくり、それを再現するために何千という糸を使う。技術者というよりもアーティスト。そこに魅力を感じて、ものづくりを目指す若い方々が新しい働き方を求めて来られるのかなと思いました。

耐水
撥水
撥水

―筑前織物は、博多織工業組合の新作発表の場「博多織求評会」で、いくどとなく内閣総理大臣賞に輝いています。その質の高さはどのように保たれているのでしょうか。

丸本 多くのデザインを起こしているところにあるかもしれません。年間で100柄以上はつくっていて、そのトライアンドエラーの数が多いのではないかと。

遠藤 伝統的な柄に加えて、それだけの新しい柄も求められているんですね。博多織工業組合はどのくらいの工場やメーカーが登録されているのですか。

丸本 登録しているのは50社くらいで、そのうち大手は8~10社です。自社でデザインまでしているのはそのうち半分くらいかと思います。弊社は京都と東京にも支店があります。呉服の中心地は京都ですが、東京にもまた京都とは違う感覚があります。2つの都市に拠点を持つことで、色、形、大きさなど、リアルタイムで求められているデザインが共有できる。各支店の営業が商品開発会議のなかでデザイナーと協議してつくりあげていきます。

遠藤 色や柄は時代によって求められるものが違うのですね。

丸本 帯だけでは続けていけない危機感もありますので、インテリアや装飾品にも力を入れています。ホテルやマンションの内装の一部となったり、帯を額装して飾ったり。私たちもただ博多織を使ってもらうのではなく、コーポレートカラーを入れたり、その地域に沿ったモチーフを入れたりなどストーリーを込めるようにしています。

遠藤 全国のいろいろな織物があるなかで、博多織にしかない魅力はどのような部分でしょうか。

丸本 丈夫なことなどその機能性も魅力ですが、私はその「粋さ」にあると思っています。粋さとは何か。私が家業を継ぐために博多織について一から学んだとき、博多織唯一の人間国宝・小川規三郎(おがわ・きさぶろう)さんが「粋」について教えてくださいました。小川さんの「粋」とは、デザインにマイナスの考えをもつ、ということでした。色も柄もどんどん引いていき、残ったものが美しい。それが博多織ではないか、と。

遠藤 それを体現した柄はどのようなものですか。

丸本 博多織を代表する「献上柄(けんじょうがら)」です。献上柄は、仏具である独鈷(とっこ)と華皿(はなざら)、そして親子縞、孝行縞の4種類からなります。親子縞は太い縞(親)が細い縞(子)を挟み、孝行縞はその逆です。つまり、親が子を守り、子が親を守るという願いが込められています。

遠藤 献上というのはお上に献上していた、ということですか。

丸本 江戸時代、黒田長政に献上するものだったといういわれがあります。仏具や家内繁盛のモチーフから、縁起物として献上されていました。こういったシンボル的な柄があるということも、ほかの織物にはない特徴だと思います。

遠藤 いまのお話をきいて、デザインの考えは世界共通なんだなと思いました。ドイツのデザイン学校・バウハウスの校長で建築家のミース・ファンデル・ローエが残した「Less is more.」という有名な言葉があります。より少ないことは、より豊かだ、と。長く残るものは付け焼き刃な装飾ではなく、ものの本質を最大限に生かしたデザインなのかもしれないですね。それだけの背景が博多織にはあるのでしょう。

撥水
撥水
  • 博多織
  • MUSUBUパートナー